stand.fm「弁護士しんみなとの弁護士の法律ラボ」書き起こし
【2021年3月27日放送 #1 法律って何を学ぶの!?殺人罪は成立するのか…】
弁護士のしんみなとたくみです。
本日から本格的に法律の話をして行きたいと思いますが・・・その前提として。
法律に限らず、何かを勉強する際に、結構見落としがちになるのが、①「何を」勉強するのか、②「どう」勉強するのか、という2点です。
①は、勉強対象の勉強、②は、勉強方法の勉強です。
この2点を学んだ上で勉強を始めるかどうかで、その成果は大きく変わってきます。
ということで、本日から数回にわたって、上記2点の話をまずはしたいと思います。
本日は、そもそも法律の勉強って何するの?っていう話です。
弁護士をしていると、よく「六法全書全部覚えたんですか?」とか聞かれます。
もちろん、私は「覚えました。歩く六法全書です。」って答えますが、嘘ですが。笑
実際、覚えないんですよね。
法律の勉強って六法全書を覚えることじゃないんですよ。
じゃあ、どんな勉強をするのかって話なんですが、刑法の次のような事例を考えてみてください。
事例
しかし、拳銃の弾は礼二くんの足をかすっただけでした。
礼二くんは、剛くんから拳銃で狙われていることに気づき、慌てて逃げ出しました。
諦めきれない剛くんは礼二くんを追いかけました。
礼二くんは目の前に国道が走っていることに気づき、その方向に逃げました。
礼二くんがとっさに国道に飛び出したとき、たまたま走行していた車にはねられ死亡しました。
この事例ではどんな犯罪が成立する?
この事例で、皆さんが剛くんを裁く裁判の裁判官だったらどんな犯罪が成立すると考えるでしょうか?
剛くんは、礼二くんを殺そうと思ってますし、礼二くんは、実際に死んでます。
そうすると、ぱっと思いつくのは、殺人罪ではないでしょうか?
では、殺人罪に関する条文を見てみましょう。刑法199条と203条です。
刑法199条
刑法203条
剛くんは、「人を殺した」と言えるでしょうか?それとも、殺そうとは思ったけど殺せなかった、つまり未遂となるのでしょうか?
犯罪が成立するためには、行為、結果、行為と結果の因果関係が必要になります。
剛くんの場合、拳銃を発砲するという行為があり、礼二くんが死んだという結果もあります。
問題は、因果関係です。
今回、因果関係が認められれば、殺人罪になるでしょうし、因果関係がないとなれば、殺人未遂罪になるでしょう。
しかし、先ほどの条文を読んでも、殺人罪になるのか、殺人未遂罪になるのかはわかりません。
ていうのも、法律はありとあらゆる人を殺した行為について殺人罪を適用する必要があるので、抽象的に書かれています。
もし、199条が「人を毒殺した者」と規定している場合、毒殺以外の方法で殺した場合、殺人罪に問えなくなるからです。
つまり、法律を適用するには、もうひと作業が必要なのです。それが、「法律の解釈」です。
その法律が定められた趣旨などを考え、条文の中で使われている言葉の具体的意味を明らかにしていくことです。
今回の事例の場合、「人を殺した」という言葉は、ある行為によって直接的に死亡した場合に限られるのか、ある行為のあとの被害者の行動によって結果が発生した場合も含むのかを考えていくわけです。
このように、法律の勉強とは、条文を暗記することではなく、その条文の文言を適切に解釈し、この世で起きている具体的な事案を解決するための方法を学ぶことなのです。
暗記ではないと聞いて安心しましたか?もちろん、法律の勉強には暗記の要素もありますが、それはあくまでも、法律の解釈する上で最低限必要なものだけを暗記すれば足ります。
決して、六法全書を暗記することではありません。
もちろん、勉強を進めていく中で、何度も出てくる条文は自然と覚えてしまうことはありますが、条文を覚えようと思って暗記する必要はありません。
我々弁護士も、六法全書をすべて暗記しているわけではなく、適切な法律の解釈方法を身に着けており、その法律の解釈力を使って、依頼者が巻き込まれた紛争に法律を適用し解決しているのです。
今回の事例については、各自考えてみましょう。色んな解釈ができると思います。
刑法に入ってからどう考えればよいかをお伝えしますね。
それまで、お楽しみに!
次回以降は、法律の勉強方法として、条文の読み方や判例・学説などについて話したいと思います。
では、今日も一日頑張っていきましょう!