stand.fm「弁護士しんみなとの弁護士の法律ラボ」書き起こし
【2022年10月25日放送 #13 刑法の全体像 刑法はホップ、ステップ、ジャーンプ】
弁護士のしんみなとたくみです。
さて、今日は、刑法のお話です。
刑法といえば、殺人罪とか、窃盗罪とか、皆さんもニュースとかで耳にする機会の多い法律ではないかと思います。
そもそも、刑法ってなに?
まずは、刑法が何のためにあるのかを考えていきましょう。
逆にもし刑法がなかったらと考えてもらうといいですね。
刑法がなかったら・・・恐ろしいですよね?
今、犯罪とされている行為が犯罪ではないということになるわけですから、安心して街も歩けませんね。
私たちの身体や財産が侵されてしまうリスクがめちゃくちゃ高まります。
このように、刑法は我々の身体や財産を守るためにあります。
このような身体や財産のことを刑法では、「法益」と言います。
法律で守るべき国民の利益という意味です。
つまり、刑法の役割の一つは、「法益保護機能」です。
刑法があることによって、我々国民の法益が守られているわけです。
刑法の役割は、法益保護機能だけではありません。
刑法は、明確に犯罪となる行為を定めています。
そして、刑法に書かれているもの以外で国民の行為を国が犯罪として処罰することは認められていません。
つまり、国民は、刑法に書かれた犯罪以外の行為は自由にできるわけです。
刑法があることによって、国民は堂々と自由に行動できるわけです。
この刑法の役割を「自由保障機能」と言います。
この2つの機能はしっかりと押さえておいてください。
犯罪かどうかの判断はどうする?
さて、それでは、ある行為は刑法に規定された犯罪に該当するかどうかはどのように判断するのでしょうか?
その方法は、ホップ、ステップ、ジャーンプです。
どういうことかというと、そもそも、犯罪とは、「構成要件に該当する違法かつ有責な行為」です。
つまり、犯罪になるかどうかは、ホップとして構成要件に該当するかどうか、ステップとして違法性があるかどうか、ジャンプとして有責性があるかという3段階で判断するわけです。
一つずつ説明します。
ホップ
まずは、構成要件です。
構成要件とは、刑法の条文に書かれている刑罰の対象となる行為等です。
たとえば、刑法236条1項の強盗罪を見てみましょう。
- 刑法236条1項(強盗罪)
- 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。
これが強盗罪の条文です。
強盗罪が成立するためには、
- 暴行又は脅迫を用いること
- 他人の財物を強取すること
の2つの要件が必要になります。
これが構成要件です。
犯罪の成立を検討すべき行為がこの構成要件に該当しているかを判断するのがホップです。
ホップの段階で構成要件の該当性が認められると、原則として犯罪は成立します。
しかし、構成要件に該当したとしても、犯罪として処罰すべきではない特別な事情があるかも知れません。
そのような特別な事情がないかの判断をするのが、ステップとジャンプ段階です。
ステップ
では、ステップの違法性の有無に行きましょう。
たとえば、ある女性が夜道で男に襲われたとします。
自分の身を守るため、近くにあったコンクリートブロックで襲ってきた男性の頭を殴ってしまい、その男性は死んでしまいました。
ここで、女性の行為を見ると、コンクリートブロックで人の頭を殴っているので殺人罪の構成要件に該当しそうですね。
しかし、女性は自分が襲われて自分の身を守るためにやむなくこの行為を行っていますよね。
もし、これをしなければ自分が死んでいたかも知れません。正当防衛ですよね。
つまり、女性の行為は、刑罰を科してでも禁止すべき行為とはいえないわけです。
このことを、違法性がないといいます。
今回のような正当防衛が認められる場合は、刑罰を科してまで禁止すべき違法性はないとして、例外的に犯罪の成立が否定されます。
ジャンプ
最後に、ホップで構成要件該当性が認められ、ステップで例外的に犯罪の成立を否定すべき違法性がないとなったとしても、ジャンプで有責性を判断します。
有責性とは、その行為を行った人を非難できるかという話です。
たとえば、幼児が持っていた鉛筆でお父さんの手を刺してしまい怪我を負わせてしまったとしましょう。
このとき、傷害罪の構成要件に該当します。
また、正当防衛などの違法性を否定する事情もないとしたら、この幼児は刑罰を科されるのでしょうか?
刑罰は、そんなことやったらダメでしょ!とその行為者を非難し、今後同じことをするなよと反省を促すために科すものですよね?
犯罪行為をやめようと思えばやめれたのにあえて犯罪行為を行った人を非難できる場合に刑罰は効果を発揮する訳です。
しかし、幼児には、刑罰を科すよりも家庭で鉛筆の危険性などの教育をした方がいいですよね?
このように、その人を非難できるかどうかを検討するのが有責性の問題です。
小さいな子どものように非難できない場合は、有責性が否定され、犯罪は成立しないということになります。
まとめ
以上のホップ、ステップ、ジャンプを検討して、犯罪が成立するかどうかを判断します。
最後にまとめると、ホップの構成要件該当性が認められると、犯罪は原則成立します。
例外的に犯罪の成立を否定できる特別な事情がないかを検討するのが、ステップの違法性と、ジャンプの有責性です。
刑法は常にこの3ステップで判断しますので、しっかりと押さえておいてください。
では、本日は以上です。
今日も頑張っていきましょう!