stand.fm「弁護士しんみなとの弁護士の法律ラボ」書き起こし
【2022年10月28日放送 #15 民事訴訟法の全体像-裁判は真実を探すところではない!!-】
弁護士のしんみなとたくみです。
今日は、民事訴訟法の全体像をやっていきましょう。
訴訟、裁判と聞くと皆さんはどんなイメージを持ちますか?
そりゃあ、裁判は、真実を発見して、勝つべき人間が勝つ、正義は勝つ場所でしょ~と思うかもしれません。
しかし、実際の民事訴訟は、真実を発見することを最重要視しているわけではないのです。
真実の発見よりももっと重要なものがあります。
それは、紛争を解決することです。
ここで、この点を理解していただくために、民事訴訟の大まかな手続きの流れをご説明します。
事例としては、次のようなものを想定しましょう。
ある日、Aさんは、友人であるBさんに対して、Aさんが持っていた人気ブランドの時計を30万円で売りました。
そして、Aさんは、Bさんにその時計を引き渡しました。
しかし、その後、いつまで経ってもBさんから代金30万円が支払われることはありませんでした。
そこで、AさんはBさんに対して、「30万円払ってよ」と請求しました。
しかし、Bさんは、「いや、あれはAさんが僕にくれるって言ったじゃないか?もらったものだから、代金は払わないよ。」と言いました。
Aさんは、あくまでもその時計はBさんに売ったものだと主張し、二人の認識の違いは解決せず、AさんはやむなくBさんに対し、30万円の支払いを求めて裁判を提起しました。
では、早速民事訴訟の流れを見ていきましょう。
まず、訴えを提起しなければなりません。
今回の場合、Aさんが裁判所に対して、訴状を提出ことによって訴えの提起をします。
なお、訴えを起こす者(Aさん)のことを原告、訴えられた者(Bさん)を被告と言います。
次に、裁判所は訴状の内容や当事者双方の言い分を確認します。
今回の事例では、AさんはBさんとの売買契約を主張し、BさんはAさんとの贈与契約を主張しています。
そこで、裁判所はAさんとBさんとの間でどんな内容の契約が締結されたのかを判断しなければなりません。
そこで、当事者は、裁判所を納得させるために自分の言い分の根拠となる資料、いわゆる「証拠」を提出します。
今回の事例では、AさんはBさんとの売買契約書があればその契約書を、Bさんは、Aさんが「あげるよ」と発言した際の録音データなどです。
最後に、裁判所は、当事者の主張と証拠を精査して、最終的な判断、判決を下します。
場合によっては、判決を下す前に当事者に和解を進めたりします。
いずれにしても、裁判を終わらせます。
これが、ごく簡単ですが、民事訴訟の流れになります。
この流れを踏まえて、先ほどの話に戻ります。
民事訴訟では、真実の発見よりも紛争の解決を優先するという話です。
たとえば、先ほどの事例で、Aさんは、Bさんとの売買契約書を持っておらず、証拠として提出することができなかったとしましょう。
一方で、Bさんは、Aさんが「それ、あげるよ」と発言している録音データがあったのでそれを証拠として提出しました。
そうすると、真実は、売買契約ではなく贈与契約である可能性が高まります。
しかし、Bさんが真実は、Aさんからもらったものだけど、この時計は本当に貴重なもので、タダでもらうのは気がひけるな~と思いなおし、やっぱり、30万円払おうと決意し、裁判において、「Aさんの主張を全面的に認めます!」と宣言したとしましょう。
このとき、裁判所は真実は贈与契約だからと正義感を振りかざし、判決でAさんの請求を認めない、Bさんには30万円を支払う義務はないという判決を書くことができるのでしょうか?
実は、民事訴訟では、そのような判決を書くことは認められていません。
真実は贈与契約でも、当事者が売買契約を認めた場合は、その認めた内容に反する判決は裁判所は書くことはできないのです。
ちょっと極端な事例のため、違和感を抱くかも知れませんが、民事訴訟法が手続法であることを理解していれば、腑に落ちるかと思います。
民事訴訟法は、民法という実体法の権利を実現するための手続法でした。
そして、民法には「自分のことは自分の意思で自由に決めることができる」という私的自治の原則がありました。
つまり、民事訴訟法においてもこの私的自治の原則が反映されているのです。
今回、Bさんは自分が30万円を支払うということを自分の意思で決めています。
その意思に反して、裁判所が「いや、真実は贈与契約だからBさんは30万円を払うべきではない!」ということは許されないのです。
Bさんが自ら納得して決めたことに他の者は口を挟むことはできないのです。
Bさんの意思で紛争が解決するのであれば、真実の発見という要請は一歩後退するのです。
これが、民事訴訟法の原則になります。
いかがだったでしょうか?
以上が民事訴訟法の全体像になります。
それでは、本日は以上です。
今日も一日頑張っていきましょう!